AI革命から学ぶ、企業が量子コンピューティングを導入する際の教訓とは

AIであれ量子コンピューティングであれ、状況をガラッと変えるような革新的な技術を企業規模で導入するのは決して容易いことではありません。しかし、あなたが企業のIT関連の意思決定の権限をお持ちであれば、私が念を押してお伝えしたいことは、失敗を恐れて、その導入を諦めることのないようにしてほしいということです。

- RealPage, Inc.CEO、Zapata Computingボードディレクター、Dana Jones

この記事は、RealPage, Inc.CEO兼Zapata Computing取締役 Dana Jones氏によるゲスト投稿です。

多くの産業と同様に、ライフサイエンスもここ10年ほどでAIによって完全に変貌を遂げました。私はその最前線で、その変貌を見守り続けていましたが、その過程で多くの洞察と経験を得ました。それは、まだ歩み始めたばかりの量子コンピューティングの今後の導入までの道のりにも関連すると考え、共有したいと思います。

私がSparta SystemsのCEOだった頃、当社はライフサイエンスの品質管理システム(QMS)、つまり医薬品や医療機器の安全性と品質を保証するソリューションに対するAIの活用において、パイオニア的な存在でした。当社のAIソリューションにより、医薬品・医療機器メーカーは、製造過程における安全性や品質の不具合への対処や、予防をより主体的に行えるようになっていたのです。結果的に、多くの人の命を救うことにつながりました。

そして、現在に至ります。私は、量子コンピューティングがAI以上に大きな変革をもたらすと考えて、Zapataの取締役に就任しました。製薬業界において、量子コンピューティングは、創薬プロセスの時間短縮から、製造・流通プロセスの最適化まで、バリューチェーン全体に利益をもたらすと思います。しかし、それが一朝一夕にして成し遂げられるものではないということを、AI革命から学びました。

AIであれ量子コンピューティングであれ、ゲームチェンジとなるようなイノベーションを企業規模で採用するのは決して簡単ではありません。しかし、これを読んでいるあなたがもし、企業のIT関連の意思決定を勤める役割を担っているなら、失敗を恐れるあまり、量子コンピューティングの導入を諦めてはいけないということです。技術的に優位に立つためには、早い段階で何度も失敗し改善を繰り返す必要があります。

ハードウェアが完全に成熟するのを待っていたら、より早い段階でその導入を検討していた競合他社に大きな遅れをとることになります。ゆえに、そのような競合他社に技術面で劣ってしまう可能性が出てきてしまいます。新たな技術な導入のためには失敗することもプロセスの一部と割り切って取り組むことが、成功のための唯一の秘訣と言えるでしょう。

過去の失敗から学べば、将来の失敗を回避することができます。AI革命の現場にいた私は、現在、企業が量子コンピューティングを採用する際に直面している課題と多くの類似点を感じています。以下では、私が企業のAI導入から学んだ、量子導入の成功に役立つ最大の教訓をご紹介します。

千里の道も一歩から

私がSparta Systemsにいたとき、Sparta社のAIは、最も重要度の高い品質と安全性の問題を段階的に強化するためのプロセスの構築と自動化に取り組んでいました。当初は、カスタマーの安全がかかっているため、エンドユーザーは当然、この重要なプロセスをAIに委ねることに少しためらいを感じていました。ゆえに、私たちはまず少しづつAIへの信頼を積み重ねる必要がありました。それはつまり、AIが人間が行なっていることをサポートしていること、AIが、人間が意図したとおりに動いていること、そしてAIがカスタマーの仕事の負担を減らすことを理解してもらう必要があったのです。また、その際には少数のカスタマーからの信頼をまずは得ることが鍵でした。そうすれば、彼らがエヴァンジェリストとなって組織全体への普及が早く進みやすいからです。

量子コンピューティングの導入も上記と同じようなものでしょう。一度ですべての機器に量子コンピューティングを適用しようとするのは困難です。まずは小さく始めて、成果を出し、そこから他の機器にも量子コンピューティングを導入していくのです。最初の概念実証からプロトタイプ、アプリケーションの試験運用に至るまで、各ステップで成果を証明し、カスタマーからの信用を得ることが必要です。

そうすれば、量子コンピューティングの普及にいざ投資しようとなった際に、ステークホルダーへの説明にも説得力が増します。量子コンピューティングの価値が明確になり、検証されれば、ビジネス全体のステークホルダーから、こちらから導入を強く薦めずとも、「ぜひ導入したい」と思わせることができるようになるでしょう。

ユースケースの特定

改めて念を押してお伝えしたいのは、量子が全ての問題を解決する魔法のようなものではないということです。しかし、古典コンピュータだけでは解決できないような特殊な問題において、量子は古典コンピュータには提供できない解決策を提供することができます。

具体的には複雑な最適化の問題や機械学習の問題への解決、分子シミュレーションの実施などです。企業にとって最適なユースケースは、業界や、現在直面しているボトルネックによって異なります。

しかし、どのアプリケーションを追求する価値があるのか、すぐに明らかになるとは限りません。Sparta Systemsでは、当社のAIソリューションの最適なユースケースをカスタマーが特定できるよう支援することが、ビジネスの大部分を占めていました。同様に、Zapataのような外部の量子パートナーは、あなたの組織にとって最適なユースケースを特定し、どのユースケースが短期的、長期的に考えて最適なのかを特定するご支援をします。

先に述べたように、予算権限を持つエグゼクティブを含め、組織からより一層賛同を得るためには、早期にビジネスで結果を出し、一部のからの厚い信頼を獲得する必要があるため、かなり具体的で達成可能な量子のユースケースから導入を始めることが鍵となります。

エグゼクティブ・チャンピオンを持つ

研究開発は、AIであれ量子コンピューティングであれ、新しいアプリケーションを発見するための重要な部分です。しかし、研究開発プロジェクトは、しばしば他と関わりを持たず、孤立して行われています。そのため、研究室では興味深い結果が得られるかもしれませんが、いざビジネスソリューションに繋げようとすると、失敗してしまうケースが多いのです。実際、今日の企業は非常に複雑で、そのような現実の中で仕事をすることができなければ、実験は単なる実験で終わってしまいます。

このため、量子コンピューティングで解決できるビジネス問題を理解し、研究開発の実験から実用的なビジネスソリューションへとアプリケーションを拡大するため、組織全体を率いている経営者の賛同と支援を得ることが重要なのです。すなわち、リスクを冒してでも挑戦をし、メンバーと協力し、学ぶことを厭わないような姿勢が重要です。また、AIやその他のディープテックの導入プロセスを経験し、成功のために何が必要かを知っている外部パートナーを選ぶことができる人でなければなりません。

ここで一つ、経営者は「技術」について聞きたいわけではないということを忘れないでください。彼ら経営者の関心は、いかにしてビジネス上の課題を解決し、社内外のカスタマーにより良いサービスを提供できるかということ。そのような彼らの関心に訴求することが、量子コンピューティングの導入を成功させる第一歩となるでしょう。

人材育成の重要性

もちろん、今お話ししたことは経営者だけでできることではありません。新しい技術の導入に成功するには、専門のチームが必要です。量子コンピューティングはまだまだ発展途上の分野であるため、量子コンピューティングを専門的に扱える人材は比較的少なく、むしろ急速に減少しています。

Zapataが発表した企業向け量子コンピューティング導入に関するレポートによると、量子コンピューティングへの道を歩み始めた企業の51% は、すでに人材の発掘と量子チームを編成し始めています。技術が完成するまで待っていたら、優秀な人材はすでに他の企業へと移ってしまうでしょう。

つまり、人材育成には早い段階から着手する必要があります。学校を卒業したばかりの新卒の学生を採用することもできますが、教室で量子力学について学ぶのと、実際のビジネス課題を解決するために量子力学を応用するのには、大きな違いがあります。真に学ぶには、トライアンドエラーを繰り返す経験が必要です。また、量子力学の専門家は、ITリーダー、ドメインの専門家、そして経営陣などのリーダーからなるたくさんの役割のチームを跨いで、チームと協力する必要があります。また、社内の量子チームの知見を補うために、他社で量子を用いてビジネス課題をした経験を持つ外部のコンサルタントを活用するという手段も有効です。

インフラの構築

量子コンピューティングやAIを導入する際の最大の課題の1つは、既存のITスタックとの統合です。実際、Zapataの企業調査では、量子コンピューティングと既存のITスタックの統合が煩雑であるがゆえに、量子コンピューティングの導入に踏み切れない最大の障壁になっていることがわかりました。多くの企業では、数十年も前のシステムを現在も利用しており、まだ利用できるシステムをただの代替品と置き換えることに新たにお金をかけようとはしません。そのため、量子的なソリューションには、既存のシステムを補強し、相互運用することが必要です。

量子力学はまだ初期段階にあるため、相互運用性が確立されることは非常に重要です。すなわち、将来、新しいソフトウェアやハードウェアを導入する際にも、後から導入されたシステムに対応できるような柔軟性が必要なのです。このため、Orquestra® のような、量子インフラを構築するためのオープンプラットフォームが必要となります。Sparta や RealPage の成功の多くは、顧客の既存のITや将来のITと相互運用が可能なオープンプラットフォームのおかげと言っても過言ではありません。

改めて大切なことは、失敗を恐れないこと

量子コンピューティングの導入は簡単なことではありません。特に企業規模ではそうです。しかし、より重要なのは、失敗したとき、その原因を考え、軌道修正の方法を学び、成功できるプロセスを繰り返し行うことです。そのプロセスには長い期間を要しますが、より早く始めて経験を積むことこそ、より早く価値を生み出せるようになるために必要なことなのです。

Dana Jonesは、成長志向の強いCEOで、グローバルな企業向けソフトウェア企業を革新的なマーケットリーダーへと成長させました。リアルページのCEOに就任する前は、Sparta Systemsの社長兼CEOとして、ライフサイエンス分野の品質管理システムにAIを活用する革新的な取り組みを行い、会社をハネウェル社に買収するに至りました。

[注:このブログ記事は、Zapata Computingのポッドキャスト「The Quantum Pod」へDanaが出演した際の内容に基づいています]

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Dana Jones

Board Director; CEO of RealPage, Inc.

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